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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)597号 判決 1985年9月25日

控訴人

小山一雄

右訴訟代理人

石塚文彦

被控訴人

日本発馬機株式会社

右代表者

澤慎吉

右訴訟代理人

畠山保雄

田島孝

原田栄司

矢島匡

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は、原判決添付目録(一)記載の競走馬用発馬機及び同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のため展示してはならない。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、更に当審において、新たに予備的請求として、「被控訴人は、原判決添付目録(一)記載の競走馬用発馬機及び同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のため展示してはならない。被控訴人は控訴人に対し、金一七九一万二五九二円及び内金五六七万六〇〇〇円に対する昭和六〇年五月二三日から、内金一二二三万六五九二円に対する同年六月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張及び認否は、後記一、二のとおり付加するほか、原判決事実欄第二に摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  当審における控訴人の主張

1  仮に、本件各実用新案権が職務考案に該当し、したがつて被控訴人が本件各実用新案権について通常実施権を有するとしても、それが職務考案に基づく通常実施権である以上、その実施権の範囲は、控訴人の考案に係るものを使用し得るのみであり、そのものを製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示し得るものではない。

また、本件各実用新案権は、いずれも使用方法について考案されたものであつて、特許法にいう「方法の発明」に相当する(同法二条三項二号)ものであるから、その方法を使用する行為のみが、本件各実用新案権の「実施」に該当するものというべきである。したがつてこの点からも、本件各実用新案権について被控訴人に認められる通常実施権の範囲は、控訴人の考案に係るものを使用し得ることのみに限定されるのである。

2  ところで、被控訴人は、従前から地方公共団体が行う公営(地方)競馬の開催に当たり、これら主催者との間に業務請負契約を締結した上、被控訴人の従業員をして控訴人の本件各考案に係る発馬機用後扉の係止装置を装着した競走馬用発馬機(以下「48型発馬機」という。)を使用してその操作業務に当らせていたものであるが、それまで業務請負契約を締結していた益田市に対し、昭和五九年四月五日48型発馬機を代金五六七万六〇〇〇円で売却し、翌同月六日その引渡を了した。また被控訴人は、岩手県に対し、昭和六〇年三月二八日48型発馬機を代金一二二三万六五九二円で売却し、同月三〇日その引渡を了した。

被控訴人のこれら譲渡行為は、前記1に述べたとおり、被控訴人の有する通常実施権の範囲を逸脱し、控訴人の本件各実用新案権を侵害するものである。なお前記各48型発馬機は、いずれも既に耐用年数の五年を経過した後の譲渡であるから、被控訴人が得た譲渡代金はそのまま被控訴人の利益というべきであり、従つて、控訴人は被控訴人の前記侵害行為により右譲渡代金である合計金一七九一万二五九二円相当の得べかりし利益を失い、同額の損害を蒙つたものというべきである。

3  右2に主張したところからも明らかなとおり、被控訴人は、今後なお48型発馬機を他に売却しようとの動きがあるほか、原判決添付目録(一)記載の競走馬用発馬機や同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置を製造、譲渡、貸渡等するおそれがある。

4  よつて、控訴人は被控訴人に対し、予備的請求として、その請求の趣旨第一項のとおり譲渡等の差止を求めると共に同第二項のとおり各売却代金相当の損害金並びにこれに対する右各売却の後である昭和六〇年五月二三日及び同年六月八日から各完済に至るまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  当審における被控訴人の認否及び主張

1  (控訴人の右1の主張について)本件各実用新案権につき被控訴人の有する通常実施権が職務考案に基づくものであるからといつて、「使用」にのみ限定されるいわれはない。また実用新案は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案について権利が与えられるものであり、方法についての考案なるものは実用新案法上存在しない。このことは本件各考案についても同様であることはいうまでもないところであり、本件各考案が特許法にいう「方法の発明」に相当するものであるなどということはありえない。

したがつて、控訴人の1の主張はそれ自体失当というべきである。

2  (控訴人の右2の主張について)被控訴人が、益田市及び岩手県との間に、控訴人主張どおりの売買契約を締結し、各発馬機を引渡したことは認める(但し、岩手県との契約代金一二二三万六五九二円のうちには輸送費及び交換部品代を含み、発馬機の代金は三二〇万円である。)が、その余は争う。

被控訴人の右売却行為は、本件各実用新案権の通常実施権に基づくものであつて、控訴人の権利を侵害するものではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一控訴人の主位的請求について

当裁判所も、控訴人の主位的請求は理由がなくこれを棄却すべきものであると判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正するほか原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

原判決一七枚目裏四ないし五行目の「実用新案権法」とあるのを「実用新案法」と、同一八枚目表一行目の「係止装置の使用」とあるのを「係止装置の製造、使用、譲渡、貸渡、譲渡若しくは貸渡のための展示」とそれぞれ訂正する。

二控訴人の予備的請求について

被控訴人が、本件各実用新案権について、通常実施権を有する以上、右通常実施権が職務考案に基づくものであつても、本件各実用新案権の技術的範囲に属する物の使用のほか、その製造、譲渡、貸渡、譲渡若しくは貸渡のための展示ができることは、実用新案法九条三項(特許法三五条一項)、一九条二項、二条三項の規定に照らして明らかである。

また、控訴人は、本件各実用新案権は「方法の発明」に相当するものであるとの趣旨の主張をするところ、右論旨は必ずしも明確ではないが、当事者間に争いのない本件各実用新案権の登録請求の範囲によれば、本件各実用新案権が控訴人の主張するようなものでないことは明らかであるから、控訴人の右主張は採用の限りでない。

したがつて、被控訴人の通常実施権の範囲は本件各実用新案権の技術的範囲に属する物を使用できることだけに限定されるものでないことが明らかである。

三以上のとおりであるから、控訴人の主位的請求について、これを理由がないとして棄却した原判決は相当であつて、本件控訴はこれを棄却すべきであり、また、控訴人の当審における予備的請求も理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官瀧川叡一 裁判官松野嘉貞 裁判官清野寛甫)

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